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健康志向の高まりと現状
何も気にせずおいしいと思えるものを食べる食事と、健康を意識して使用素材にこだわった食事を比較したとき、後者では「物足りなさ」が生じやすくなります。食品メーカーの研究開発・商品開発部門が向き合っているのは、こうした制約と満足感をどう両立させるか、という課題です。
以下では、物足りなさが課題になりやすい例として、減塩と動物性原料不使用それぞれの状況を確認します。
減塩ニーズの拡大と消費者の健康意識
厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査」によれば、20歳以上の食塩摂取量は1日平均9.6g(男性10.5g、女性8.9g)です。「健康日本21(第三次)」が掲げる目標値7gとは約2〜3gの差があり、現状から相当程度の削減が必要な水準です。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、若いうちからの生活習慣病予防の観点から、成人のナトリウム(食塩相当量)の目標量が引き下げられています。食塩摂取量の削減は政策的にも継続的に求められており、食品メーカーにとって中長期的に無視できないテーマです。
出典:厚生労働省
令和6年「国民健康・栄養調査」の結果
日本人の食事摂取基準(2020年版)
動物性原料不使用(プラントベース)への消費者シフト
動物性原料を使用しない食品へのニーズは、健康・環境・アレルギー対応という複合的な要因に支えられ、豆乳・大豆ミート・植物性スープベースなど特定のカテゴリーで広がりを見せています。農畜産業振興機構が8カ国の消費者を対象に実施した調査(2021年)でも、食肉代替食品に対する関心が各国で確認されており、日本においても一定の消費者層での購入意向が見られます。
こうした背景のもと、植物性素材を使いながらも動物性原料に近いおいしさを実現したいというニーズが、食品メーカーの開発現場に浮かび上がっています
出典:農畜産業振興機構「各国における食肉代替食品の消費動向」(2021年6月)
健康志向食品が抱える「満足感」の課題
健康志向食品に対する確かなニーズがある一方で、開発現場では避けて通れない課題があります。それが、「健康機能を高めるほど消費者の満足度が下がりやすい」という、開発者にとって頭の痛い構造的矛盾です。この矛盾は、商品KPIであるリピート率や喫食頻度に直結するため、開発部門にとっては無視できないテーマです。
減塩食品に対する消費者の本音
塩には、味全体の輪郭を整え、うま味・甘み・コクといった他の味を引き立てる働きがあります。塩分量を減らすことで、味全体のボリューム感が失われ、「薄い」「ぼやけた味」という評価につながりやすくなります。
健康のために減塩が必要だと理解していても、おいしくなければ継続摂取にはつながりません。「減塩と満足感の両立」は、開発現場が向き合う本質的な課題です。この課題への油脂によるアプローチとしては、呈味成分を油中に保持し口腔内での風味の持続性を高めることで、塩分が少ない状態でも満足感を感じやすくする設計が考えられます。
プラントベース食品の「コク不足」という壁
同じ「おいしさの壁」は、動物性原料を抜いた商品開発においても別の形で顕在化します。プラントベース食品開発における最大の技術課題は、動物油脂が持つ「コク」と「口溶け」を植物性素材でいかに再現するかです。これは単なる代替原料の選定にとどまらず、油脂の結晶・脂肪酸組成といった設計変数への踏み込みを要する技術課題となります。
奥行きのある風味と持続性の不足
動物油脂(ラードや鶏油など)が持つ複雑で豊かな風味は、植物油脂への単純な置き換えでは再現できません。動物油脂は植物油脂と比べて精製度合いが低いため、揮発性の微量成分が多く残っており、これが独特の香りと奥行きのある風味を生み出しています。ラーメンスープやスナック菓子など、動物油脂が長年標準として使われてきたカテゴリーで、この差が特に際立ちます。
コクという感覚は、味の「厚み」「広がり」「持続性」として表現されることが多く、こうした感覚要素を植物性素材で再現するには、風味成分の補完と口腔内での挙動を設計する必要があります。
口溶けやテクスチャーの差異
動物油脂と植物油脂では、体温付近におけるSFC(固体脂含有量)が異なる場合があります。動物油脂は体温付近でもSFCが一定以上あるため、油脂が口の中にとどまりやすく、これがコクや満足感として感じられます。一方、植物油脂で同温度帯でのSFCが低くサラサラした状態の場合、飲み込まれやすいため、口の中に残る満足感が得られにくい傾向があります。
動物油脂と同等の口溶け感を植物性素材で再現するには、このSFCを温度帯ごとに適切に設計することが重要な技術課題となります。
味覚を科学する。油脂設計で実現する「満足感」のコントロール
風味の奥行きや口溶け・食感といった物性は、いずれもかつて感覚的に議論されてきた領域です。近年の食品科学では、これらを「設計可能な変数」として扱う枠組みを提示しています。
「コク」「満足感」「おいしさ」に影響する設計について、油脂によるアプローチが一つの選択肢として示され、官能評価技術と油脂設計技術の組み合わせによって定量化・制御可能な品質要素としてとらえ直されつつあります。
満足感を「風味の出方」と「食感」で設計する
「風味の出方」は、味の成分がいつ、どれだけ口の中で広がるかで変わります。ここに効くのが、油脂の含水性です。油脂の含水性を高めることが呈味成分を油の中に抱え込ませることにつながり、風味の立ち上がりを強化したり、余韻の持続性を高くすることができます。
もうひとつの「食感」は、油脂の溶け方に大きく左右されます。さきほど触れたSFC(固体脂含有量)の設計しだいで、口溶けの軽さや、コクにつながるまとわりつきが変わってきます。「風味の出方」と「食感」、この二つを油脂の側から組み立てることで、減塩や動物性原料不使用といった制約のなかでも満足感を保ちやすくなります。
用途と課題に合わせた「満足感設計」ソリューションと製品例
減塩や動物性原料不使用といった課題に応じて、油脂によるアプローチは異なります。現在これらの課題に対応するソリューションとして、以下のようなアプローチがあります。
ソリューションラインナップ
減塩課題には風味を増強する油脂が、動物性原料不使用課題には動物油脂の風味や物性を再現する油脂がそれぞれ対応しており、課題に応じて使い分けることになります。
【風味の底上げ・持続性】「日清素材ストロングR70」
減塩調味料の物足りなさや、代替原料使用時の味のボリューム感不足を解決したい場合に適するのが、「日清素材ストロングR70」です。同製品は、独自の「風味増強技術」を採用しており、高い含水性によって食品素材の持つ水分と呈味成分を抱き込み、喫食時に口腔内で早く広がることで味・香りのトップが強く感じられます。
また、呈味成分の口腔内での滞在時間を長くすることで、余韻を持続させる設計となっています。コクの感じ方における「広がり」「持続性」に影響することで、満足感に寄与します。
「日清素材ストロングR70」の機能について水溶液を用いた官能評価を行っており、基本五味の強さや余韻が増強されることが確認できています。
適用用途はパスタソース、ラー油、スパイスを使った炒め物、スープ、ベーカリー製品、乳製品など幅広く、減塩商品の味のボリューム感底上げや、スープのコク増強など、減塩×おいしさの両立を目指す商品開発で活用できます。
唐辛子を使ったスナック菓子に加えれば辛味の増強に、チョコレート系菓子に加えれば深いコクのある後味の付与にと、適用範囲が広い点も特徴です。
【動物油脂のコク再現】「コクミファット(ラードタイプ)」
動物性原料不使用でありながらラード特有の甘み・コク・うま味を付与したい場合に適するのが「コクミファット(ラードタイプ)」です。同製品は、温度帯毎のSFC(固体脂含有量)をラードに近づけることで、ラード独特の口溶けや味の持続性を追求しています。
それにより、複雑で奥行きのある「コク」を植物性原料のみで再現した風味油です。本物のラードの物性にフィットする油脂を組み合わせることで、動物油脂らしい重層的な味わいを再現しています。
適用用途ではラーメンスープや大豆ミート、炒飯など、動物油脂が従来標準として使われてきた領域での置き換えが中心となります。ラードと同様の口溶け感を付与できるため、プラントベースの即席麺やヴィーガン対応商品の満足感設計に貢献しやすい点が魅力です。
調達の安定性といった観点でも、動物性原料不使用という点は実務的メリットが大きいといえます。
まとめ
健康志向の食品開発において、健康機能とおいしさの満足感はトレードオフの関係になる場合があります。一方で、おいしくないと続けられないという点も大きな要素になるのではないでしょうか。
物足りなさの一例である、減塩設計による味の満足感の低下、動物性原料不使用による物足りなさといった課題に対して、油脂によるソリューションが解決の糸口となる可能性があります。健康機能へのニーズが広がる中で、素材や成分に制約を設けた商品設計は今後も続く課題であり、こうした場面での油脂が担える役割は大きいと考えています。
当社では、減塩または動物性原料不使用に関する満足感の課題に対して、油脂による風味発現の強化と物性のコントロールというアプローチでご提案します。「健康」も「おいしさ」も、どちらも外せないというテーマをお持ちの皆様に是非ご活用いただきたいソリューションです。
減塩や動物性原料不使用に関する課題がございましたら、ぜひ一度ご相談ください。製品の詳細や導入のご相談については、以下のページからお気軽にお問い合わせください。
